認定薬剤師 座談会
認定薬剤師の活動を紹介します!
参加者(あいうえお順)
- <東葛病院勤務>
- 栄養サポート専門薬剤師、糖尿病療養指導士
青木 千紘 - がん薬物療法認定薬剤師
菊池 知美 - 在宅療養支援認定薬剤師
横尾 浩也(移籍のため中断) - 感染制御認定薬剤師
渡邊 美絵
- <わかば薬局勤務>
- HIV感染症薬物療法認定薬剤師
角南 直美
- <みさと協立病院勤務>
- 精神科薬物療法認定薬剤師
牛尾 幸子
※司会
(株)外苑企画商事 代表取締役 谷本 昌義
(収録:2015年5月12日 東葛病院7F会議室)
どんな資格があるの?
【精神科薬物療法認定薬剤師】
司会 「医療と福祉」前月号に続き、薬剤師の座談会パート2を行います。今回は初期研修(5年)を終えて次に目指す目標としての「認定薬剤師」にスポットを当てたいと思い、皆さんにお集まりいただきました。別表に示しましたように、いろいろな認定制度があり、認定団体もさまざまです。
今日お話しいただきたいことは、そもそも認定薬剤師とはどういうものか、資格を取得するにはどうすればいいか、実際にどんな仕事をしているのか、どんなやりがいがあるかなどについてです。まず、どんな資格を持っているか、どうやって取ったかをお話しください。
牛尾 私は「精神科薬物療法認定薬剤師」という資格を持っています。2009年に取得し、5年後の2014年に更新をしました。資格を取るためには、認定試験、精神科に関する講習(50単位・約100時間)、精神疾患患者に対する指導実績が50症例必要です。
司会 実績症例を50というのは、たしかに大変ですね。
牛尾 そうなんです。症例数は各認定制度によって異なりますが、たくさんの指導実績症例を書かなければいけないというところが、皆さん苦労するところだと思います。
司会 具体的には、どういうことをやるための制度ですか?
牛尾 日本の精神科薬物療法は、ポリファーマシー(不必要な薬剤が投与されている状態)の問題が指摘されています。スタンダードの薬物療法を学び、処方に反映させることや、患者さんにできるだけ辛い症状が出ないような薬物療法を目指すことが認定薬剤師の仕事になります。
認定薬剤師の種類と認定団体
認定制度 | 認定団体 | 対象 | 実務研修設定 | その他 |
---|---|---|---|---|
研修認定薬剤師 | 日本薬剤師研修センター | 薬局可 | なし | 基本 |
認定実務実習指導薬剤師 | 日本薬剤師研修センター | 薬局可 | なし | |
漢方薬・生薬認定薬剤師 | 日本薬剤師研修センター | 薬局可 | 薬用植物園実習1回 | たくみに2名 |
小児薬物療法認定薬剤師 | 日本薬剤師研修センター | 薬局可 | 実務研修1日 | |
がん薬物療法認定薬剤師 | 日本病院薬剤師会 | 薬局不可 | 実務研修3ヵ月 | 菊池 知美 |
感染制御認定薬剤師 | 日本病院薬剤師会 | 薬局不可 | なし | 渡邊 美絵 |
妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師 | 日本病院薬剤師会 | 薬局不可 | 実務研修5日 | |
精神科薬物療法認定薬剤師 | 日本病院薬剤師会 | 薬局可 | なし | 牛尾 幸子 |
HIV感染症薬物療法認定薬剤師 | 日本病院薬剤師会 | 薬局可 | 実務研修2日 | 角南 直美 |
緩和薬物療法認定薬剤師 | 日本緩和医療薬学会 | 薬局可 | なし | |
抗菌化学療法認定薬剤師 | 日本化学療法学会 | 薬局不可 | (研修施設で5年) | |
救急認定薬剤師 | 日本臨床救急医学会 | 薬局不可 | なし | |
プライマリ・ケア認定薬剤師※ | 日本プライマリ・ケア連合学会 | 薬局可 | 見学実習8単位(1単位半日) | たくみに2名 |
スポーツファーマシスト | 日本アンチ・ドーピング機構 | 薬局可 | 実務研修会1回 | たくみに1名 |
外来がん治療認定薬剤師 | 日本臨床腫瘍薬学会 | 薬局可 | なし | |
在宅療養支援認定薬剤師※ | 日本在宅薬学会 | 薬局可 | バイタルサイン講習会 | 横尾 浩也(中断) |
栄養サポート専門薬剤師 | 日本静脈経腸栄養学会 | 薬局可 | 実務研修40時間以上 | 青木 千紘 |
糖尿病療養指導士 | 日本糖尿病療養指導士認定機構 | 薬局可 | なし | 青木 千紘 |
腎臓病薬物療法認定薬剤師 | 日本腎臓病薬物療法学会 | 薬局可 | なし | |
日本禁煙学会認定指導薬剤師 | 日本禁煙学会 | 薬局可 | なし | |
認定褥瘡薬剤師 | 日本褥瘡学会 | 不可ではない | なし | |
医療薬学会認定薬剤師 | 日本医療薬学会 | 薬局可 | 研修施設1年以上 | |
がん専門薬剤師 | 日本医療薬学会 | ほぼ無理 | 研修施設5年以上 | |
薬物療法専門薬剤師 | 日本医療薬学会 | ほぼ無理 | 研修施設5年以上 | |
NR・サプリメントアドバイザー | 日本臨床栄養協会 | なし |
※薬剤師認定制度認証機構認証
【感染制御認定薬剤師】
司会 次に渡邊さん、お願いします。
渡邊 私は「感染制御認定薬剤師」を取得しました。病院内での感染対策が重視されるようになり、東葛病院でも感染制御チームを設置しており、私もそのメンバーです。この資格は、院内感染の予防や制御、治療に貢献するのが目的です。20時間以上の講習を受け、認定試験に合格し、さらに自分が関わった感染対策の実績症例を20以上提出する必要があります。
司会 たしかに今、院内の感染対策は重要なテーマになっていますので、感染制御認定薬剤師の存在は大きいですね。
【がん薬物療法認定薬剤師】
司会 菊地さんはどんな資格をお持ちですか?
菊池 「がん薬物療法認定薬剤師」です。皆さんとの大きな違いは、3ヵ月間の研修が必要という点です。がんセンターなど大きな病院でないと研修できませんので、私は国立がんセンター中央病院で研修を受けました。皆さんの協力のもと、研修に行かせていただきました。そこで3ヵ月間みっちり研修を受け、認定試験を受け、50症例を提出します。
司会 すべての認定制度は5年の認定期間があって、5年後には更新をする必要があります。そこがまた大変なところです。
菊池 がん薬物療法認定薬剤師の場合は、更新申請までの5年間に講習単位を50単位以上取得しなければいけませんし、実績症例も25以上提出しなければいけません。継続した勉強が必要なのが認定制度です。大変だけれど、だからこそ、力がついていきます。
【栄養サポート専門薬剤師】【糖尿病療養指導士】
司会 青木さんはどんな資格を?
青木 一つは「栄養サポート(NST)専門薬剤師」です。NSTは医師、看護師、栄養士、薬剤師からなる栄養サポートチームのことで、患者さんの症状に合わせてよりよい栄養管理を行うためのチームです。患者さんの栄養状態が悪いと、どんなに治療してもなかなか回復できません。入院日数を減らすためにも栄養管理は重要で、NSTを導入する医療機関が増えてきています。
資格を取るには、2日間にわたる講習が年に5回、全国で行われていて、そのどれかに参加します。私は北海道まで行きました。あと、NSTの専門施設での実務研修が40時間必要です。そして症例を10症例集め、それが審査に通ると試験が受けられます。
もう一つ、「糖尿病療養指導士」を持っています。こっちのほうがどうしても欲しかった資格ですが、簡単なようでなかなか取れません。糖尿病専門医の指導を受ける必要があり、その条件が達成できなくて、3回受けて3回目にやっと取れました。
【HIV感染症薬物療法認定薬剤師】
司会 これまでお話しいただいた牛尾さん、菊池さん、青木さんの資格は病院で取得するもので、あとのお二人はどちらかというと保険薬局で必要とされる資格です。では角南さんからお願いします。
角南 私は「HIV感染症薬物療法認定薬剤師」です。HIV感染症の薬物療法のための資格で、10時間以上の講習と2日間の実習を受け、試験に合格したのち、30症例を書いて提出し、それが認められると認定が受けられます。エイズ=死ではなくなりましたが、薬を毎日きちんと飲み続けることが重要です。急増する東葛病院のHIV感染患者さんを保険薬局で服薬サポートしています。
司会 東葛病院はHIVの拠点病院になっていますので、必然的にわかば薬局にはHIVの患者さんが来られます。それで角南さんはわかば薬局で取得したわけですね。
角南 はい。前任者がパイオニアで、患者さんが少ないときから活動していて、私は背中を押してもらいました。
【在宅療養支援認定薬剤師】
司会 では最後になりましたが横尾さん、お願いします。
横尾 実は東葛病院に移籍になったため、中断しているのですが、「在宅療養支援認定薬剤師」を目指していました。資格を取得するには研修単位が35単位以上、単位受講のうち1回は学会に参加していること、それからバイタルサイン講習会を受講していること、在宅業務の実践による5事例を提出して、それが認められると試験が受けられます。
司会 このほかに、たくみ外苑薬局には「プライマリ・ケア認定薬剤師」が2人います。両方とも、在宅療養を支える資格です。
資格を使ってどんな仕事をしているの?
司会 では実際に資格を使ってどんな仕事をやっていますか。
渡邊 東葛病院が感染防止対策加算を取得していて、週1回ラウンドを行うことと、薬剤師が必ずチームに入っていることが条件です。専門医と感染管理認定看護師がいますので、その中で薬剤師として抗菌剤がどのように使われているか患者さんの症状を調べ、ディスカッションをして担当の医師に返していきます。各病棟の感染制御の状況を調べていく中で、この使い方はどうかと相談があると返したりもします。
菊池 がん薬物療法には緩和ケアと化学療法の2つの分野があります。緩和ケアチームができたときからチームの事務局として関わらせていただいて、そこでは認定が必要条件ではないんですが、患者さんがどういう経過の中でそういう症状に陥って、どうやれば楽になるのかというところでは認定取得のときに学んだ知識とか、がんセンターで見せてもらった症例が役に立っています。東葛病院は症例が多くはないんですが、どんな患者さんがいるのか自分が知っていることで、皆さんが困ったときにアドバイスができるようになりました。
司会 お二人とも資格を生かして仕事をされているわけですね。牛尾さん、精神科の領域ではいかがですか。
牛尾 全国レベルの精神科臨床薬学(PCP)研究会というものがあって、各病院の統合失調症などの薬の調査を行い、データを出しています。それによって自分の病院の処方内容が標準的であるかないか、比較ができるんですね。それから、ブロック別に年に2回、自分の症例を持って活動交流集会に参加します。症例を発表し、ディスカッションをしてもらえるし、他の人の症例を聞いて検討もしますので、それを自分の服薬指導に生かしています。よそとベンチマークしながら、自分のところの処方内容を整えていくのが仕事かなと思います。
司会 青木さんはサポートチームの中で活動されていますね。
青木 はい。まず、栄養上問題のある患者さんを電子カルテで抽出して、会議にかけます。そのあと、その患者さんに会いに行き、なぜ食事を食べないのか、胃液が出過ぎていないかなど問題点を整理して、胃液の問題だったら担当の薬剤師に、栄養上の問題だったら栄養士さんに返して、チームで患者さんをみています。経腸栄養学会では、栄養が基本である、病棟薬剤師が栄養管理をできることは絶対に必要だと言われています。
角南 HIVでは薬はもちろんですが、社会的に複雑な背景を持つことが多い患者さんを支えていくために、病院の医師・看護師・ソーシャルワーカー・薬剤師と連携し、チームで仕事をしています。また薬局内では、HIVの最新の薬物療法に関する情報を共有しています。
資格を持っているメリットは?
司会 資格を持っていると、どんなメリットがありますか。
牛尾 情報交換ができることだと思います。病院の中だけだと自分のところの情報しか交換できませんが、認定となると学習会や学会に行ったりして顔がつながるので、情報交換が有機的に広がります。
司会 認定を更新するためには、絶えず最新の情報を知っておく必要がありますからね。
牛尾 実績症例の記載は苦労しますが、この作業をする中でもう1回自分の頭の中が整理され、それが次の服薬指導に役立ちます。薬剤師は自分のストロングポイント、強みを持っていたほうがいい。だから認定資格は取ったほうがいいと思います。
菊池 東葛病院はがんだけをやっていればいい病院ではないので、どんどん新薬が出てくる中、自分の学ぶ時間が全然足りず、知識不足だなぁと日々思っているところが辛いですね。症例提出もそれを作るための時間が必要で、学会発表も必ずしなければいけないので、気持ちとしては目指したほうがいいし、勉強にはなるんですが、それだけをやっていればいいわけではないから…。
司会 簡単なことではないということですね。
菊池 はい。だけど、取ったことによって、患者さんに対する見方だとか、研修に行って学ばせていただいたことは生きています。東葛病院ではチームで連携しながら、いろいろ広くやっているからこそ、がんだけではない気になることが出てきて、フォローしていかなきゃという思いが出てきます。
司会 ジェネラルの部分を大事にしながら専門を持とうというのが当法人の目指しているところです。専門分野を生かせるトータルな薬剤師をめざす。それを一人の人の努力だけにせずに、法人全体で職場環境を考えていきたいと思っています。
菊池 認定を取ったことによって、看護師さんとか医師とか多職種の人たちから相談を受けることが多くなりました。これが一番のメリットかなと。
牛尾 「私はこの分野が得意です」という看板を持っているほうが信用されるということはあると思います。認定を継続していく大変さはありますが、それは法人全体でサポートしたいと思います。看板を持っている人がたくさんいたほうがいい。がんでわからないこと、栄養でわからないことがあったら、聞くことができますからね。法人全体の医療の質は向上すると思います。
得意分野を持つ認定薬剤師を増やしたい
司会 保険薬局でも取れる認定が増えていて、認定を取る動きが始まっています。これから皆さんの後輩が続いてくるように、先輩として何かアドバイスはありますか。
菊池 研修に行くなら頭が柔らかい若いうちがいいと思いました(笑)。あと、他の人の勉強方法を知るって、すごく新鮮だし学びになります。
青木 今まで薬剤師に聞かなかったことも、資格を取ったことで聞いてくれるようになったかなと思います。そうすると一緒に考えることができるので、チーム医療をやっているという実感を持ちます。だから、もっと薬剤師を使っていただきたいです。
渡邊 一人の人が全部を極めるのは絶対に無理だから、それぞれが専門を持って、お互いに活用していくことが大切かなと思います。
司会 専門を取って、その人たちの情報がきちんと共有できると、集団としての力量が上がります。
青木 たしかに先生に話しかけるにも自信になっています。
司会 自信を持てるというのは大きいことですね。
青木 欲を言えば、同じ資格を持っている人がもう一人いればいいなと思います。
司会 たしかに現在はほとんど一人ずつですから、一つの認定を複数の人が持って相談できるようにしたいですね。
横尾 在宅はジェネラリストが求められます。薬以外の食事などについてもフォローしないといけないので、広い知識が必要です。先日もある患者さんのご自宅を訪問したら、ベランダの排水が詰まって水びたしになっていました。それで急いで、担当の会社に電話をしました。薬剤師の仕事じゃないよなと思いつつ、患者さんが困っているのを見過ごすわけにはいきませんから。
司会 在宅は本当に幅が広いですからね。どこにどうつないでいくかの判断を求められることもあります。
皆さん、今日はありがとうございました。一人ひとりの薬剤師が基本的な力量を上げることは重要ですが、医療の高度化に伴い専門分野にも対応できる集団作りが必要だと考えています。得意分野を持つ薬剤師が増え、それが共有されれば集団として質が上がります。また、その人がほかの人を指導することで、個々の薬剤師の質も向上することになります。認定を取得することは大変ですが、目指す過程も糧となるので、すべての薬剤師に認定取得を目指してもらいたいと思います。